本書(*)は、資本主義経済の仕組みを徹底的に分析した書物であり、その核心は「資本とは労働者の労働力を搾取することで増殖する価値」である、という点にあります。マルクスはまず商品の二重性――使用価値と交換価値――を明らかにし、価値が社会的に必要な労働時間によって規定されることを示します。次に、貨幣が資本へと転化する過程を解明し、労働力の商品化こそが資本主義の出発点であると論じます。続いて、資本がどのように「絶対的剰余価値」(労働時間の延長)や「相対的剰余価値」(生産力向上による労働必要時間の短縮)を通じて利潤を生み出すかを追及します。さらに、資本の蓄積と拡大が「産業予備軍」や労働者の不安定な生活を生み出すメカニズムを解明し、最後に「本源的蓄積」として、封建的な農民から土地を奪い資本主義的生産関係を生み出した歴史的過程を描き出します。全体を通じて、資本主義の発展は必然的に階級対立を深め、変革の条件を準備するという洞察が示されています。
カール・マルクス(1818–1883)は、ドイツ出身の思想家・経済学者・革命家であり、資本主義の批判的分析を通じて社会変革を目指した人物です。青年期には哲学者ヘーゲルの思想に影響を受け、歴史を「人間の社会的実践」の中で捉え直しました。その後、友人であり生涯の協力者でもあるフリードリヒ・エンゲルスと出会い、政治経済学の研究を深めます。ロンドン亡命後は厳しい生活に苦しみながらも、膨大な資料を調査し『資本論』を執筆しました。彼の関心は単なる経済理論にとどまらず、労働者階級が自らの力で解放される可能性にありました。マルクスの方法は「歴史的唯物論」と呼ばれ、社会のあり方を生産力と生産関係の相互作用から説明します。彼はまた「万国の労働者よ、団結せよ!」の呼びかけに象徴されるように、理論と実践を結びつけた点でも特徴的です。その思想は社会科学全般に深い影響を与え、現代でも資本主義の分析や批判において重要な参照点となっています。