本書(*)は、明治時代における日本人エリート青年の内面の葛藤と、異国での愛と責任を描いた短編小説です。主人公・太田豊太郎は、ドイツ・ベルリンに留学中の官僚。順調に官僚としての道を歩んでいた彼は、舞姫エリスと出会い、彼女を支えるうちに恋に落ちます。
しかし、国からの圧力やエリートとしての期待、そして母の死という出来事が重なり、心が揺れ動くなかで、豊太郎はやがてエリスを捨てて帰国する決断をします。その結果、エリスは精神を病み、子を身ごもったまま孤独に残されるのです。
この物語は、理想と現実、愛と義務、国家と個人といったテーマを軸に、近代化の波に呑まれた一人の青年の苦悩を描きます。語り手の一人称視点を通じて、内省的な心の揺れが濃密に表現されており、読者に深い感情の共鳴を呼び起こします。
*出典:青空文庫