本書(*)は、1896年に刊行されたアンリ・ベルクソンの代表作です。本書でベルクソンは、「心」と「身体」の関係を、当時主流だった機械的・物質中心の考え方とは異なる視点から探究しました。
彼はまず、「知覚」とは世界をそのまま映す鏡ではなく、「行動のための選択」であると述べます。そして「記憶」には二つの層があると区別します。ひとつは身体に刻まれた習慣としての記憶、もうひとつは過去そのものが精神の中に保存されている純粋記憶です。
ベルクソンにとって、過去は消え去るものではなく、意識の深層に積み重なり、現在の判断や行動に静かに働きかけています。本書は、物質と精神を対立させるのではなく、両者を「運動」と「時間」の流れの中で統一的に理解しようとする壮大な試みです。
それは哲学書でありながら、私たちの日常の「思い出す」「感じる」「選ぶ」という体験を根本から見つめ直す一冊でもあります。
アンリ・ベルクソン(1859―1941)は、フランスを代表する哲学者であり、20世紀思想に大きな影響を与えた人物です。理性中心の近代哲学に対し、「生きた時間(持続)」や直観の重要性を説き、生命や意識を動きの中で捉えようとしました。主著に『時間と自由』『創造的進化』『物質と記憶』などがあります。1927年にはノーベル文学賞を受賞し、その思想は哲学だけでなく文学や芸術にも広く影響を与えました。人間の内面的な体験を深く見つめ続けた思想家です。

